「コバルトブルー」という言葉が生まれる遥か以前。古代エジプトやメソポタミアの人々はすでに、青色にきらめく美しいガラスをつくり出す方法を知っていた。砂や石灰に加えることによって、ガラスを深い青色に発色させる不思議な物質こそ、のちに私たちが「コバルト」と呼ぶ鉱物の一種。紀元前3000年とも2000年ともいわれる遠い昔から、コバルトは、ガラスの発色材として利用されてきたのである。
何千年にもわたり、ガラスや磁器を色付けするために欠かせない物質として利用されてきたコバルトだが、ひとつの独立した元素として認められたのは、じつは18世紀に入ってからのこと。1730年代、スウェーデン人化学者、ゲオルグ・ブラントによって鉱石からはじめて未知の物質「コバルト」は抽出され、その存在が実証されたのである。
一般に、"Cobalt(コバルト) "という名称は、ドイツ語の"Kobold(コボルト)"に由来するといわれている。さて、その根拠とは…。
中世ドイツの鉱夫たちは、鉱山の穴に"Kobold(コボルト)"が住んでいると信じていた。コボルトとは、英語の"goblin(ゴブリン)"同様、人間に何かと悪さをはたらく地の精や魔物のこと。銀の鉱脈を探し求めていた鉱夫たちは、採掘した銀色の鉱石から、ひとかけらも銀を取り出すことができなかったとき、それをいたずら好きのコボルトの仕業だと考えていたのである。
コボルトの魔法によって、なんの価値もない石に変えられてしまった銀色の塊。彼らは、やがてその鉱石そのものを「コボルト」と呼ぶようになった。このコボルトこそ、ゲオルグ・ブラントが発見した未知なる鉱物"Cobalt(コバルト) "だったというわけである。